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2008.10.30 (Thu)

03 天使の微笑み

パムおじちゃんの企画に、タイ人の方が参加してました。
この作者さんが英語で書いた小説を和訳したので載せときます。

英語だとよく見る表現でも日本語にすると不自然になっちゃったり、
そもそも作者さんも英語が母国語なわけじゃないので
文法ミスやスペルミスがあったりしてどうしようか迷いましたが、
とりあえず私のフィーリングで意訳しまくりました。
間違った解釈があったらすみません。

(あと、地の文での新垣さんが"里沙"、吉澤さんが"よっすぃ"に
 なっているのですが、日本人的には違和感あるので"ひとみ"に
 しちゃいました、ごめんなさい)

それにしても、これ物凄くピュアピュアな小説なんですよね。
もう日本の娘。小説界じゃ絶滅種の類です。
なんかあまりに純粋すぎて、
訳しながら恥ずかしくてうおおおおってなってました。

この作者さんに比べて、私はなんてひねくれた作者なんだろう・・・
私みたいに汚れた心の人間が和訳すべきじゃないなと思いました。
ほんとすみません。
海外の娘。小説作者さんに、初心に帰れと言われた気がしました。

あと、まじハンパなく意訳しまくってます。
(大事なことなので2回言いました)

作者さんの詩的な慣用表現はなるべく直訳するようにしたのですが、
うまく伝わらなかったらすみません。
あと普通にミスも多いと思うので最初に謝っておきます。

前置きが長くなりました。
私のことなんてどうでもいいですね。

まだ見直しとか推敲してなくて、あくまで暫定バージョンなので
これからちょこちょこ修正していくかもしれません。
それではどうぞ。

【More・・・】

――――――――――
03 天使の微笑み
――――――――――


秋――

寂しい季節。
すべてがオレンジ色に染まっていた。
自分の腕を抱きしめていないと肌寒く感じるほど風も冷たい。
冷たい季節。
地面はすっかりオレンジ色の落ち葉に覆われている。
19歳の新垣里沙は、空を見上げ、4年ほど前に去った彼女に思いを馳せていた。

+++

吉澤ひとみは、里沙より3つ年上の幼馴染だった。
出発前、彼女は里沙に言った。
「ガキさんのハタチの誕生日が来たら戻ってくるよ。 ――秘密を教えに」

里沙はその“秘密”が何なのか知りたかった。

「よっちゃん、秘密って何?」
ひとみはそれを聞いて少し笑った。
里沙は電車のドアの所でひとみのコートを引っ張る。
目の前にいるひとみはあと数分で東京へ出発してしまうというのに、彼女は最後の瞬間まで里沙を困惑させた。

「キーワードがあるんだ。 時が来ればガキさんにも分かるよ」
「キーワード? 何それ?」

里沙は疑い深げに尋ねる。
ひとみは意味深に笑うだけだった。
発車のベルが響き、2人ともさよならを言わなければいけない時間だと気づく。

「もう行かなきゃ。 ガキさんが成長したら、秘密を教えに戻ってくるよ。 キーワード用意しといてね」
「は? ちょ、ちょっと待ってよ! よっちゃん! それどうすれば分かるの?」

ひとみは里沙の額に軽くキスをして、車内に戻っていった。
ドアが閉まる。
だが里沙は混乱して、その場に立ちつくしていた。
電車は少しずつスピードを上げていく。
里沙は走って電車を追いかける。

ひとみはまだドアのところに立っていた。
里沙は必死で走り続ける。
里沙は彼女の顔をできるだけ覚えていたかった。
これからはもう、ひとみは里沙のそばにはいてくれないのだ。

最後に見たあの穏やかな笑顔は、里沙の心に強く残った。

+++

里沙は乾いた落ち葉を蹴りながらため息をつく。
落ち葉は里沙の足元で風に舞った。
ひとみのいない4年間で、里沙は少しずつ、ゆっくり変わっていた。

里沙はすっかり無口な少女になっていた。
かつての快活な笑顔は失われていた。

親友の絵里はいつも里沙にそう言っているのだが、里沙はそれについては無視を決め込んでいるようだった。
里沙には楽しいことなんて何ひとつ無かった。
笑う理由すら見つからなかった。

里沙はコートのポケットに手を突っ込んで、携帯電話をきつく握り締めた。
携帯を取り出して、受信ボックスの中のひとみからのメールを開く。

ひとみは東京の大学に進学してから、この小さな町には1度も戻ってこなかった。
戻ってくる理由がなかったからだ。
両親はひとみより何年も前に東京に引っ越していたのだが、彼女は東京に行く前に、この町で高校を卒業したかったらしい。
ひとみは高校卒業まで祖父母の家に居候していた。

そんなわけで、ひとみはこの町に戻ってくる必要がなかった。
里沙は、ひとみが約束を破ったのではないかと心配していた。

ひとみから送られてきたメールには、いつも色々なことが書いてある。
しかし、それも里沙にとっては興味の湧かないものばかりだった。
里沙の20歳の誕生日が近づいている。
――しかしひとみからのメールの中には、あのキーワードを知る手がかりは見つからなかった。

もしひとみが約束通り戻ってくるとしたら。
彼女の秘密とは何なのだろう?
それを知るためのキーワードも、里沙には全く分からないままだった。

里沙は携帯のボタンを押して、ひとみからのメールを読んでみる。
それは、ひとみがここを去ってから初めての里沙の誕生日に送られたメールだった。
祝福の言葉と共に、最後にあのキーワードのヒントが書かれていた。

【それはガキさん自身が持ってるものだよ】

私が持ってるもの? 何だろう?
そんなのいっぱいありすぎて分かんないよ。

ひとみからの誕生日プレゼントを思い返してみる。
おそらく、それも少しは関係あるはずだ。
巨大な箱の中には、丸いお腹の大きなテディベアが入っていた。

――お腹、という意味だろうか?

里沙は顔をしかめて、その考えを頭から打ち消した。
次の年の誕生日に送られてきたメールを開き、最後の部分を読んだ。

【他の人も持ってるものだけど、ガキさんと同じわけじゃない】

何だろう?
私も持っていて、他の人も持っていて、でも同じじゃない。

里沙はまたため息をついた。
もうこの謎を解く方法はないかのように思えた。
ちなみにその年に送られた誕生日プレゼントはただの2冊の本で、キーワードとは全く関係なさそうだった。
里沙は、3度目の誕生日に届いたメールの最後の部分を読んでみる。

【つまり、ガキさんのは他の人のとは違う。 特別だし、私はそれが大好きだから】

特別・・・?
よっちゃんもそれが好き?

里沙は、自分が持っているものの中でひとみが好きそうなものを考えてみる。
ひとみが里沙の何を好きかなんて、今までひとみが言っているのを聞いたことがない。

ひとみは、里沙のことを好きな素振りさえ見せたことがない。

そんなことを考えてしまって里沙は赤面した。
里沙のひとみへの気持ちは、ただの友達への感情を越えていた。
でも、ひとみが里沙をどう思っているのかは分からない。
だから里沙は自分の気持ちを表に出すことはなかった。

里沙に対するひとみの優しさは、おそらくただの友達に対するもので、深い意味はないのだろう。
でも里沙はほんの少しだけ、希望を捨てきれないでいた。

里沙は携帯を閉じ、公園をあとにして家路に着いた。

+++

また退屈な朝が始まる。
大学へ向かって歩いている途中、里沙は大きな声に驚かされた。

「ガキさーん! おはよう!」

里沙が振り返ると、上機嫌でにこにこ笑っている親友と目が合った。

「カメ、挨拶するなら、次からはもっと静かに言ってくれないかな」
「何よー、朝なんだからもっと元気に行かないと」

亀井絵里はへらへらと楽しそうに言った。
絵里は鼻歌を歌いながら、スクールバッグを振り回している。
里沙は小さくため息をついて、絵里と一緒に歩き始めた。

「もうすぐ誕生日じゃん。 元気出して下さいよー新垣さん」

絵里はそう言って里沙の肩を抱いた。
里沙は悲しそうな目で絵里を見る。
さすがの絵里も里沙の気持ちを察したようだ。

「まぁ前向きに行こうよ。 吉澤さんが何も言ってこないのは、ガキさんを驚かすためかもしれないし」

里沙が頷いたので絵里は嬉しそうに笑って、里沙の手を引っ張って歩き始めた。

「早く行こ」

+++

里沙は携帯電話を取り出してひとみからのメールを開くと、キーワードの手がかりになりそうなもの全てをノートに書き出してみた。

【それはガキさん自身が持ってるものだよ】
【他の人も持ってるものだけど、ガキさんと同じわけじゃない】
【つまり、ガキさんのは他の人のとは違う。 特別だし、私はそれが大好きだから】

里沙はしかめっ面で考えていた。
なかなか答えが見つからなくて不機嫌になっていた。

「私はそれが大好きだから・・・って、ねぇねぇねぇガキさん、これ何?」
「カメ!」

里沙は振り向いて声を上げた。
絵里は、里沙のノートを覗き込んで文字を全部読み上げた後、あっはっはと大声で笑った。
里沙は急いでノートを閉じた。

「もう! 最低! 人のノート勝手に見ないでよ」
「え、それ秘密だったの? 堂々と広げてるから別に隠してないんだと思ってた」

絵里はからかい半分でそう言ったが、里沙は笑っていなかった。
里沙は解けないパズルに悩み、まだしかめっ面をしていた。
一方、絵里はまだ笑っている。

「オッケーオッケー。 絵里が手伝ってあげるよ」

絵里は、里沙の隣の椅子を引っ張り出して座った。
まだ教授が来ていないので、授業は始まっていない。
教室の中は、学生たちの声で騒がしかった。

「あー・・・うん、ありがと」

最初は断ろうと思った。
ひとみと自分の関係を、絵里が理解できるとは思えなかったからだ。
でも里沙は、絵里の手助けが答えを見つけるヒントになるかもしれない、と考え直すことにした。

「何これー、意味分かんない。 ガキさんのが他の人のと違うって」

絵里は低い声でもう1度読み返した。
里沙も頷いた。

「これさ、少なくとも物じゃないってのは分かるよね」
「なんで?」

里沙は顔を上げて、後ろで笑っている絵里を見た。

「特別なものってガキさんの個性ってことじゃん。 だって、もしこれが物だとしたら値の張る物ってことでしょ? 吉澤さんってお金にがめつい人じゃないし」

里沙も絵里の考えに同意した。
ひとみはお金に執着する人間ではない。

「じゃあ何なんだろう」

里沙はノートを見ながら考え込んだ。

「絵里の考えが合ってるなら、答え分かったかも」

絵里がそう言ったので、里沙は驚いて絵里を見た。
里沙はすぐ絵里に尋ねようとしたが、絵里はそれを見透かしたように、先に口を開いた。

「これはガキさんが自分で見つけたほうがいいよ。 別に難しくない。 ガキさん忘れてるだけだよ」

絵里はそう言って、ひとみの言葉のあとにそんな文を書き足し、ノートを里沙に返した。

こうしてもう1つの手がかりが加わったわけだが、里沙には何の助けにもならなかった。

+++

秋の冷たい風が吹き上げる。
速すぎず、遅すぎず。
強くもなく、弱くもなかった。
落ち葉が地面で渦を巻くように舞い上がり、里沙の茶色の髪の毛もぱたぱたとはためく。
少し肌寒さを感じて、里沙は自分の体を抱きしめた。

里沙はノートを見ながら、書き留めた手がかりを呟いていた。
放課後の公園では、子供たちがブランコで遊んでいる。
その母親たちは近くで立ち話をしている。

♪~♪~♪~

突然の着信音に、里沙は飛び上がるほどびっくりした。
バッグから携帯を取り出す。
ディスプレイに表示された名前を見て、心が震えた。

よっちゃん・・・

『もしもーし。 ガキさん元気?』

明るく澄んだ声は今でも変わっていない。
里沙は思わず泣き出した。

「よっちゃん・・・」
『ん? ガキさん泣いてんの?』

その声は驚いてはいないようだった。
ひとみは、自分が里沙に大きな影響を与えているということを分かっているようだった。
里沙はひとみから電話が来るたびに泣いていたからだ。
そしてひとみは毎回里沙に同じことを訊く。
里沙の答えはいつも、

「泣いてない」

電話越しに里沙が鼻をすする音が聞こえて、ひとみは笑ってしまった。
里沙は今頃、慌てて涙をぬぐっているのだろう。

『う~ん・・・じゃあ今でも笑ってる?』

里沙はその言葉に少し驚いた。
自分があまり笑わないことを、ひとみはなぜ知っていたのだろう。

里沙はひとみと電話で話すたびに泣いていたが、会話すること自体は楽しかったし、よく笑った。
里沙の表情に笑顔が少なくなったことを、ひとみはどうして知っていたのか。

「誰が言ったの? ・・・カメとか?」
『いや別に。 カメもそんなことしてないよ。 なんか普通に気づいてた』

ひとみがそう言って笑ったので、里沙は何も言えなくなってしまった。

『ガキさんさぁ、大丈夫なの?』
「何言ってんの、何もないよ、全然平気だし。 ところでよっちゃん、私の誕生日には帰ってくるの?」

里沙は話題を変えようとして、ひとみに尋ねた。

『いや、実はそのことで電話したんだよね。 仕事が大変でさ。 これから電話もできなくなっちゃうし』
「じゃあ帰ってこれないってこと?」
『仕事が終わり次第かな』
「そっか・・・」

そう呟くことしかできない。
確かなことは何もなかったが、里沙にはもう希望はなかった。

『キーワードは分かった?』

そう言ったひとみの声は、電話の向こうで悪戯っぽく笑っているのが目に浮かぶようだった。

「どうやったら分かるの? ヒント少なすぎだよ」

里沙は少し不機嫌に答えた。
ひとみは里沙が何を考えているのか察したようで、くすくすと笑った。

『はい、ガキさん残念。 まだ教えてあげないよ』

里沙はすねて膨れた。
ひとみはいつも里沙を甘やかし気味なのだが、今回は違うようだ。

『まぁ前にも言ったけど、もう1回だけ言ってやろうか。 よく聞けよ』

里沙は電話中なのを忘れて、無言でうんうんと頷いた。
一言も聞き逃すまい、と携帯を強く握り締める。

『疲れた時とか悲しくなった時に、ガキさんのそれがあるだけで幸せになれる。 今度のガキさんの誕生日に戻った時、この目でそれを確かめるよ』

ひとみはそれだけ言って、さよならも言わずに電話を切ってしまった。
里沙は、秋という寂しい季節に1人取り残されたような気がした。

自分の運命を呪ったのは初めてだった。
なんで私はこんなに寂しい季節に生まれたんだろう。
秋なんて嫌いだ。

+++

2週間が過ぎた。
あれ以来、ひとみからの電話は1度もなかった。

送られてくるメールは短いものばかりだ。
里沙のメールに対する返信も、一言だけの時が多い。
ひとみは本当に忙しいようだった。

絵里は里沙にキーワードのことを尋ねたが、里沙はまだ分からないと答えた。
いずれにせよ、ひとみが帰ってこないのならキーワードなど役に立たない。

公園で遊んでいる子供たちは、楽しそうに笑っていた。
里沙は彼らの無邪気な笑顔を見つめる。

明日は里沙の誕生日だ。
大学へ行けば、友人たちがプレゼントを用意して待っていてくれるのだろう。
しかし里沙は今年の誕生日を嬉しく思えなかった。

子供たちの笑い声や笑顔だけが、里沙を幸せな気分にさせてくれた。

もしかして・・・これが答えだろうか?

里沙はノートに書き留めたことをもう1度見てみる。

【それはガキさん自身が持ってるものだよ】
【他の人も持ってるものだけど、ガキさんと同じわけじゃない】
【つまり、ガキさんのは他の人のとは違う。 特別だし、私はそれが大好きだから】
【疲れた時とか悲しくなった時に、ガキさんのそれがあるだけで幸せになれる】
【ガキさんの個性。 たぶんガキさんが忘れてるだけ】

私が持ってる何かは、すごく特別で他の人とは違う。
それは私の個性で、たぶん私自身も見たことがあるはずだけど、私は長い間それを忘れてる。
よっちゃんが悲しい時に、私はいつもそれをよっちゃんにあげていた。

もしかして、・・・私の笑顔?

里沙は携帯を取り出し、いくつか言葉を打ち込んで、ひとみにメールを送った。
携帯をバッグの中にしまって、里沙は立ち上がった。
子供たちがはしゃぎながら公園から出て行くのが目に入る。

里沙は優しく笑った。

+++

携帯の着信音が短く鳴った。
ひとみはバッグの中の携帯を取り出して開く。
里沙からのメールを見て、ひとみは微笑んだ。

=============================
10/19  16:34
from  ガキさん
subject  分かったよ!
---------------------------------------------------
よっちゃん! やっとキーワードが分かったよ。
だから絶対誕生日にはこっちに戻ってきて(>_<)
よっちゃんの秘密が知りたい。
あと、私もよっちゃんに秘密があるんだ。
待ってるからね!
=============================

ひとみはメールを読み終えて笑った。
返信もせずに携帯を閉じる。
ひとみは里沙に全てを話すつもりだった――自分の言葉で。

+++

大学の授業が終わった。

里沙はだいぶ苦労して、友人たちからのたくさんのプレゼントを持ち帰ろうとしていた。
絵里も手伝ってくれているのだが、女の子2人で持つには多すぎるほどの量だった。

「ねぇねぇガキさん、もし絵里が手伝わなかったら、どうやって持ち帰るつもりだったの?」

絵里はバッグをいくつか抱えながら文句を言った。

「まさか誕生日プレゼントにケーキ貰うなんて思わなかったんだもん」

里沙はケーキの箱を見ながら答えた。
そのケーキには、『たんじょうびおめでとう!ガキさん』という言葉と、にこにこ笑う里沙の似顔絵が描かれていた。

「みんなガキさんのこと心配してるんだよ」

里沙もそのことはよく分かっていた。
自分が目に見えて変わってしまったことは、自分が1番よく知っている。
たくさんのプレゼントは、友人たちが里沙を心配している証拠だった。

「うん・・・ありがと」

里沙がお礼を言うと絵里は微笑んだ。

「もう絵里はプレゼントあげなくていいよね」
「あ、そういえばカメから貰ってなかった。 プレゼントどこ?」
「持ってきてませーん。 これだけ貰えば、絵里のがなくたって十分でしょ」
「えー、親友なんだからさー」
「キーワード探すの手伝ってあげたし」
「それはプレゼントじゃないじゃん!」

里沙と絵里が口喧嘩をしながら歩いていると、大学の校門の前に誰かが立っているのが見えた。
絵里が最初に気づく。

「ガキさん! あれ見て! 誰?」

里沙が絵里の指差すほうを見ると、そこにはひとみが笑って立っていた。

「よっちゃん・・・」

里沙は持っていたプレゼントの山を絵里に押し付けると、慌てて言った。

「カメ、これ私の家まで持って帰って!」
「全部!?」
「うん!」

里沙はひとみの元へ走る。
絵里はやっとのことでプレゼント全部を抱えると、里沙に向かって叫んだ。

「これ持って帰ってあげるのが、絵里からのプレゼントってことで!」
「分かった!」

里沙はひとみの前に立った。
ひとみの顔を見たら何も言えなくなってしまって、里沙はただ黙っていることしかできなかった。

「よっ・・・」
「まぁ、どっか座れるとこ行こうよ」

里沙は頷いて、ひとみと一緒に歩いた。
公園のベンチに腰を下ろす。

「来れないって言ってなかったっけ?」

里沙の質問に、ひとみは少し驚いたようだった。

「そんなこと言ってないよ。 仕事次第だって言っただけ。 ガキさん、あたしに来てほしくなかったの?」
「そういうわけじゃないけど・・・」

里沙はすっかり内気になっていた。
俯いて自分の手を見つめていると、ひとみは笑って里沙の頭を撫でた。

「ガキさん、誕生日おめでとう。 もう20歳かー。 大人になったなぁ」
「うん・・・ありがとう」

ひとみからの祝福の言葉はシンプルで飾り気のないもので、里沙もお礼の言葉を一言だけ返した。
ひとみが秘密について話し出す様子はない。

「キーワードが分かったって言ってたよね。 何だと思った?」

ひとみが尋ねた。
里沙はこの質問を待っていたのだ。
里沙は大きく深呼吸をして、満面の笑みを浮かべた。

里沙がこんなに笑ったのは4年ぶりのことだった。

「答えはこれ・・・私の笑顔、だよね? よっちゃん」

里沙は微笑んだままそう言った。
ひとみは降参したように頷いて、里沙の手を握り締めた。

「じゃあそろそろ秘密を教えてあげようかな」

ひとみは顔を近づけて、里沙の耳にそっと囁く。

「好きだよ。 ずっと前から好きだった」

もし里沙がひとみのこの秘密を前から知っていれば、ヒントなど無くてもすぐにキーワードが分かったのだろう。

「で、ガキさんの秘密って何なの」

2人は至近距離で向き合っていた。
温かい息と香水の香りが頬に触れ合う。
里沙は答える代わりに、ひとみにキスをした。

私の秘密は――よっちゃんと同じだよ。

よっちゃん、愛してる。

言葉にしなくても、2人にはお互いの言いたいことが分かっていた。
今まで積み上げてきた色々なことが、お互いの気持ちを確かなものにしていた。

ひとみはこの特別な日を待っていただけだ。
里沙が20歳になるこの日を。

2人の秘密は同じだった。
キーワードは、天使のように美しく輝く里沙の笑顔。

誕生日おめでとう、ガキさん。


――――――――――

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